ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot、そしてDeepSeekやQwen(通義千問)など、私たちが日常的に使うAIチャットボットに入力した文章・コード・画像は、いったいどのように扱われているのでしょうか。
「会話が勝手にAIの学習データにされているのでは?」という不安を持つ人は少なくありません。実際、多くのAI企業は個人向け無料プラン・有料プランではデフォルトで会話データを学習に利用し、法人向け(Enterprise/API)契約では原則として学習に利用しないという、二段構えのポリシーを採用しています。
本記事では、米国系(OpenAI、Anthropic、Google、Microsoft)、その他(Meta、xAI)、そして中国系(DeepSeek、Alibaba等)の主要AI企業のデータ利用ポリシーを横断的に整理しました。
1. OpenAI(ChatGPT)
- Free / Plus / Pro(個人向け):個人ワークスペースではデータ共有がデフォルトで有効になっており、会話データはモデルの学習に利用される。ただし「設定 > Data Controls > Improve the model for everyone」のトグルをオフにすることでオプトアウト可能。
- Business / Enterprise / Edu / API:デフォルトでは入力・出力をモデル訓練に一切使用しない。
- Zero Data Retention(ZDR)契約のAPI顧客:プロンプトも回答も一切保存されない。
- 保存期間:削除された会話は30日以内にシステムから削除され、APIデータも30日後に自動削除される(法的責務がある場合を除く)。
- フィードバック機能の例外:オプトアウト済みでも、サムズアップ/ダウンでフィードバックを送ると、その会話全体が学習に利用されることがある。
2. Anthropic(Claude)
- Free / Pro / Max(個人向け):2025年8月の規約変更により、トレーニング設定をオンにすると、Free・Pro・Maxアカウント(Claude Codeでの利用を含む)の会話データで新モデルを訓練するようになった。オプトインした場合はデータ保存期間が5年に延長され、オプトアウトすれば従来通り30日間の保存にとどまる。削除した会話は将来のモデル訓練には使われない。
- 商用製品(Claude for Work、API、Claude Gov等):デフォルトでは入力・出力をモデル訓練に使用しない。ただしフィードバック機能(サムズアップ/ダウン)で明示的に共有した場合は、そのデータが訓練に利用されることがある。
- API保存期間:2025年9月から30日→7日に短縮され、API入力・出力は7日後に自動削除、モデル訓練には一切使用されない。
3. Google(Gemini)
- Gemini アプリ(個人向け無料/Advanced):「Gemini Apps Activity」がオンの場合、会話データはモデル改善(学習含む)に利用される。オフにするには当該設定を無効化する必要があり、その場合チャット履歴も保存されなくなる。
- Google Workspace / Google Cloud(法人向け):コンテンツは他の顧客のために使われることはなく、許可なく組織外の生成AIモデルの学習に使われたり人間のレビューを受けたりすることもない。プロンプトや回答はモデル訓練データとして使用されない。
- Vertex AI / Gemini Enterprise:サービス固有条項の「訓練制限」条項により、顧客の事前許可・指示なしにデータをAI/MLモデルの訓練・ファインチューニングに使用しないと明記されている。
4. Microsoft(Copilot / GitHub Copilot)
- GitHub Copilot Free / Pro / Pro+(個人向け):2026年4月24日の規約変更により、「Allow GitHub to use my data for AI model training」がデフォルトで有効になった。対象は入力プロンプト、コードコンテキスト、出力される提案・補完・チャット応答。プライベートリポジトリの「静止データ」自体は訓練対象外だが、チャットにペーストしたコードスニペットなどの「対話データ」は訓練対象になり得る。
- Copilot Business / Enterprise:契約上の約束により対話データは訓練に使用されない(学生・教員向け無料Pro枠も同様に除外)。
- Microsoft 365 Copilot経由の外部モデル(xAI Grok等):Grokを利用する場合、顧客データは保持されずxAIのモデル訓練にも使用されないが、Microsoft管理環境外で処理されるため、Microsoftの標準契約条項ではなくxAI独自の利用規約・データ処理契約が適用される点に注意が必要。
5. Meta AI(Llama / Meta AIアシスタント)
- 個人ユーザー向けには、パブリックな投稿やAIとのチャットデータを含むユーザー生成コンテンツをAIモデルの改善に利用できるとする規約更新があり、これは広告のパーソナライゼーションにも及ぶ。ただしEU、英国、韓国では現地のプライバシー法により当面適用されない。
- 以前の規約変更でも、パブリックな投稿・画像・コメント等をMeta AIやLlamaの訓練に使用できるとしつつ、プライベートな投稿やメッセージは使用しないとしていた。EU/UKではオプトアウトに専用の申請フォームが必要とされる。
6. xAI(Grok)
- 一般利用(Premium/Premium+):デフォルトで積極的な学習利用が行われ、X(旧Twitter)の投稿もスクレイピング対象になるという指摘がある(この点は第三者のまとめ記事によるもので、xAI公式ポリシーとは別に確認が必要)。
- Grok Business/Enterprise:2025年末に開始したGrok Business版では企業データは非公開に保たれ、企業の入力データによる学習は行われない。
7. 中国系AI企業のデータ利用ポリシー
中国系のAI企業も、基本的な構造は米国系と似ており、「個人向け無料/一般ユーザーはデフォルトで学習利用に同意させる仕組み」と「企業向けAPI/クラウド版は学習に利用しないと明言」という二層構造になっています。ただし、同意の取得方法やオプトアウトの手続きには違いがあります。
DeepSeek
- 個人向け(Web/アプリ):プライバシーポリシー上、入力内容(テキスト・音声・ファイル等)を含む個人データを「モデルの訓練・技術改善」に利用すると明記。ユーザーにはモデル訓練や技術最適化のためのデータ利用を拒否(オプトアウト)する権利があるが、デフォルトでは学習利用が有効になっている。
- オプトアウト方法:設定 > データ管理から「Improve the model for everyone(モデルの改善に協力)」をオフにする。過去にすでに学習に使われたデータについては、privacy@deepseek.com宛にメールで個別削除を依頼する必要があるとの報告もある。
- API(有料):2026年3月時点のポリシー更新では、有料APIアカウントの会話データはデフォルトで学習対象から除外されるとされる一方、無料利用者の匿名化データは、明示的にオプトアウトしない限り学習に利用されうる。
- データ保存場所:中国国内のサーバーに保存されるとする分析が多く、中国のサイバーセキュリティ関連法制のもとで当局のアクセスを受けうる点が、海外の規制当局・研究者から懸念材料として指摘されている。イタリア・台湾・韓国・オーストラリアなど複数国が政府機関でのDeepSeek利用を禁止・制限している。
Alibaba(通義千問/Qwen、百煉プラットフォーム)
- 一般ユーザー向け通義千問アプリ:利用規約・プライバシーポリシーへの同意を通じて、入力データの収集・利用について包括的な許諾を取る形式。「ユーザーが入力した情報は安全な暗号化技術で処理され、厳格に匿名化されて特定個人を再識別できない状態にした上で、モデル・サービスの最適化/改善/訓練に利用することを許諾する」という趣旨の記載が一般的で、同意後に利用を拒否したい場合はカスタマーサポートへの連絡やメール送信が必要になる運用が多い。
- 企業向け(阿里雲 百煉/Model Studio、API):アリババクラウドはデータプライバシーを厳格に保護しており、ユーザーのデータをモデル訓練に一切使用しないと明言。アプリ構築や大規模モデル訓練の過程で伝送されるデータはAES-256で暗号化されるとしている。
その他の中国系事業者(Kimi、文心一言、訊飛星火、百川智能、豆包、智谱清言、騰訊混元 等)
中国国内の大手モデル各社の隠私政策を横断比較した業界解説記事によると、以下のような傾向が共通して見られます。
- これら国内大手モデル各社は、隠私政策やユーザー協議の中で、対話過程で入力された情報を収集する旨を明確に告知している。テキスト情報以外にも、通義千問や訊飛星火などは音声からテキストへの変換情報、音声情報、画像情報、文書やURL情報なども収集すると明記している。
- 通義、Kimi、騰訊混元など多くの事業者は、モデル訓練を行う前に収集した個人情報を脱識別化処理し、特定個人を識別できないようにすると約束しており、訊飛星火や智谱清言はさらに匿名化処理を行うとしている。
- 同意の撤回については、ほぼ全ての国内大手モデルの「ユーザー協議」が、同意後にユーザーが拒否できるとしつつも、ユーザー協議に記載された連絡先を通じてカスタマーサービスにフィードバックするか、専用の連絡用メールを送信する必要があるとしている。
- 一方で、豆包や通義千問など一部のアプリでは、クライアント画面上に音声情報収集の簡便なオフ機能を用意している(例:豆包ユーザーは「設定」-「プライバシーと権限」-「音声サービスの改善」内のボタンをオフにすることで撤回できるが、この機能は音声以外の入力データはカバーしない)。騰訊元宝やDeepSeekは「ユーザー設定」-「データ管理」-「体験の最適化」のボタンで、対話内容全体についての許諾を完全に撤回できるとしている。
中国の規制環境という背景
中国では国家インターネット情報弁公室(网信办)が定める生成式AIサービス管理に関する規範(「基本要求」「合規指南」等)があり、ユーザーの入力情報を訓練コーパスとして使う場合はユーザーの授権記録を残す必要があり、個人情報を含むコーパスを使う前には本人の同意(機微な個人情報の場合は単独同意)を得るか、法令上の他の根拠が必要と定められている。明確な告知と同意を得ずに、事業者がユーザーの入力情報を無断で後続のモデル訓練に利用することは認められていない。
8. 米中の傾向比較まとめ表
| 観点 | 米国系(OpenAI/Anthropic/Google等) | 中国系(DeepSeek/Alibaba等) |
|---|---|---|
| 個人向け無料版 | デフォルトで学習利用「あり」だが、UI上のトグルで簡単にオプトアウトできる事業者が多い | 利用規約への包括同意方式が主流。UI上の簡単なオプトアウトが未整備な事業者も多く、撤回にはメール等の手続きが必要な場合がある |
| 法人/API版 | ほぼ全社が「デフォルトで学習に使わない」ことを明言 | 主要各社(Alibaba等)も同様に「企業向けは学習に使わない」ことを明言 |
| データ保存地・法域 | 米国/EU等、GDPR・CCPA等の枠組み下 | 中国国内保存が基本で、中国のサイバーセキュリティ関連法制の適用対象になる点が海外ユーザーには懸念材料 |
まとめ:無料利用は「デフォルトで学習に使われる」と考えるべき
ここまで見てきた通り、企業やサービスによって細かな条件は異なりますが、共通しているのは次の点です。
無料プランや個人向けの有料プラン(Plus・Pro・Advanced等)を「設定を変えずに」使っている場合、基本的にはその会話・入力したコードや画像は、各社のAIモデルの学習データとして利用される可能性が高いということです。
学習データとして使われたくない場合は、
- 各サービスの「設定」画面から「Improve the model for everyone」「Gemini Apps Activity」「モデルの改善に協力」といった学習利用のトグルを自分でオフにする
- 機密情報や個人情報、社外秘のコードなどを扱う場合は、法人向け(Business/Enterprise/API)プランやZero Data Retention契約のあるプランを利用する
という対策が必須になります。「同意した覚えがない」「気づいたらオンになっていた」というケースが実際に多く報告されているため、心当たりのある方は一度、利用しているAIサービスのプライバシー設定を確認してみることをおすすめします。
本記事の内容は執筆時点(2026年7月)の情報に基づいています。各社のポリシーは頻繁に更新されるため、機密情報や顧客データを扱う際は必ず最新の公式プライバシーポリシー・利用規約をご確認ください。


